エクソソームとは?病気との関連や分析で明らかになる新しい可能性

2022/3/16

エクソソームとは

 エクソソーム(Exosome、エキソソームとも呼ばれる)は、多くの細胞から分泌されて血液(血漿、血清)、尿、唾液、母乳など様々な体液中に存在する細胞外小胞(Extracellular Vesicles; EV)の一種です。体液だけではなく、多くの細胞株の培養上清にも放出されています。由来する細胞の特徴を反映し、他の細胞に取り込まれ、細胞間の情報伝達を担う、と言われています。大きさは直径30~150 nmで、その膜上に特徴的な抗原(CD9, CD63, CD81等)や脂質(ホスファチジルセリン等)を有しており、また内部にはタンパク質、メッセンジャーRNA(mRNA)、マイクロRNA(miRNA)、DNAを含んでおり、これらの分子が由来細胞の特徴を反映すると言われております。

エクソソームの仕組み

 細胞から分泌されたエクソソームは細胞間の情報伝達の役割を担っていると言われています。上記のようにエクソソームはその内部に核酸やタンパク質を含んでいますが、その核酸(miRNA等)がエクソソームを介してもう一方の細胞に伝達され、機能していることが報告されており、エクソソームは細胞間のコミュニケーションツールとしてはたらいていると考えられています。

エクソソームと病気の関連性

 エクソソームは、以下のように多岐にわたり様々な疾患との関わりを持っています。

  1. 1)がんの転移
     それぞれの臓器で発生する原発がんが増殖し、血管やリンパ管に入り込んで他の臓器ががんになる状態を転移がんと呼びます。がん細胞にとって、転移はそれほど容易なものではなく、そのメカニズムは長い間解明されていなかったのですが、このがんの転移に深く関わっていると考えられているのがエクソソームです。上述の通り、エクソソームは細胞間のコミュニケーションツールとしての役割があり、その役割をがんの転移において担っていると考えられています。また転移のみならず、増殖や浸潤などの悪性化にもエクソソームが関わっていると考えられています。
  2. 2)ウイルス感染の媒介
     ウイルスの生存戦略にエクソソームが関与していることが報告されています。ウイルスは生体内において細胞間を伝播し増殖して行きますが、エクソソームがウイルスのゲノムやタンパク質などを感染細胞の周囲の細胞に伝達し、ウイルスの生存に有利に働いていることが示唆されています。
  3. 3)疾患バイオマーカー
     上述の通り、エクソソームの内部には分泌細胞由来の核酸(mRNAやmiRNAなどのRNA)が存在しています。RNAは、血液をはじめとする体液中において、通常はRNaseという酵素により分解を受けますが、エクソソーム内のRNAについてはエクソソームの脂質二重膜に守られ、分解を受けずに安定なまま存在していると言われています。また、採取後長期間保存された体液においても、エクソソームは比較的安定であることが分かっており、このような性質から新たな疾患バイオマーカーとして有望であると見なされています。特に注目すべきなのは、がんの検査、診断への応用です。従来がんの検査や診断のために行っていた生検法(がん組織を直接採取する方法)は、侵襲性が高いためリスクが高い上に患者への負担が大きく、また進行の速いがんには適用が難しいという点が大きなデメリットがありました。この手法に対して、血液などの体液を用いた言わば間接的な生検であるリキッドバイオプシーをいう考え方への期待が高まっており、その中で最も活用が期待されているものの一つがエクソソームであることは、最新のニュースなどからも周知の事実となっています。
  4. 4)組織修復
     近年、間葉系幹細胞(Mesenchymal Stem Cell; MSC 中胚葉由来組織である骨や軟骨、血管、心筋細胞への分化能を持つ幹細胞)が分泌するエクソソームが、様々な疾患への治療効果を持っていることが報告されています。MSCは組織の障害における修復補助の役割を担うことが知られており、MSC由来エクソソームはMSCと同様の機能を担うと期待されています。

エクソソーム分析の事例

 エクソソームは超遠心法(サンプル中に含まれる成分の比重の違いを利用した遠心分離法)、限外ろ過法(半透膜を用いて高分子サンプルと低分子物質を分離する方法)、密度勾配遠心法(粒子のサイズ、形状、および密度に基づいて分離する方法)、ポリマー沈降法(ポリマーの添加によりエクソソーム等を凝集、沈降させる方法)や、免疫沈降法(エクソソームの膜表面タンパク質に結合する抗体-磁性粒子複合体を反応させ沈降させる方法)などで単離、精製することができます。ポリマー沈降法や免疫沈降法を用いたエクソソームの単離手法については、用いる試薬がセットになっているキットとして販売されているものもあります。
 単離したエクソソームについて、粒子そのもの(粒子数、粒度分布、膜表面タンパク質)や、粒子に含まれる成分(核酸、タンパク質)が分析対象となります。粒子数や粒度分布は、専用の測定機器にて測定します。膜表面タンパク質については、ELISA(Enzyme-Linked Immuno Sorbent Assay)による測定が一般的です。粒子中の核酸はDNAチップ(マイクロアレイとも呼ばれる)やNGS(Next Generation Sequencer)で解析します。粒子中のタンパク質は、LC-MS/MS(Liquid Chromatograph – Mass Spectrometry)などを用いて解析されます。
 上述したエクソソーム単離精製やエクソソームの分析については、一般に利用可能な受託サービスもあり、必要に応じてアウトソーシング可能となっています。

エクソソーム分析の可能性

 体液中のエクソソームの分析から得られる情報としては、含まれるmiRNAの種類と量、mRNAやDNAの配列情報、膜の構成脂質の種類、エクソソームの数、エクソソームの粒度分布、エクソソームの密度などが挙げられます。中でも特にmiRNAなどの核酸に関連した分析は集中的に研究が進んでおり、具体的には体液中に含まれるmiRNAを網羅的に解析し、そのプロファイルから複数のがん種の発がんリスクを判定するサービスなどが開発されています。
 その他、エクソソームが細胞間コミュニケーションツールとしての役割を担っていることに着目し、ドラッグデリバリーシステムに応用する検討がされています。また、エクソソームの分泌機能研究を応用し、がん転移抑制などのがん治療法が開発されているなど、エクソソーム分析、研究成果を応用して、医療分野で様々な活用が期待されています。

まとめ

 エクソソームは多くの細胞から分泌されて血液など様々な体液中に存在する細胞外小胞の一種です。細胞から分泌されたエクソソームは細胞間の情報伝達の役割を担っており、細胞間のコミュニケーションツールとしてはたらいていると考えられています。
 エクソソームは、がんの転移、ウイルス感染の媒介、疾患バイオマーカー、組織修復など多岐にわたり様々な疾患との関わりを持っています。
 エクソソームは超遠心法、限外ろ過法、密度勾配遠心法、ポリマー沈降法や、免疫沈降法などで単離、精製することができます。
 体液中のエクソソームの分析から得られる情報としては、含まれるmiRNAの種類と量、mRNAやDNAの配列情報、膜の構成脂質の種類、エクソソームの数、エクソソームの粒度分布、エクソソームの密度などが挙げられます。中でも特にmiRNAなどの核酸に関連した分析は集中的に研究が進んでおり、具体的には体液中に含まれるmiRNAを網羅的に解析し、そのプロファイルから複数のがん種の発がんリスクを判定するサービスなどが開発されています。その他、エクソソームが細胞間コミュニケーションツールとしての役割を担っていることに着目し、ドラッグデリバリーシステムに応用する検討がされています。また、エクソソームの分泌機能研究を応用し、がん転移抑制などのがん治療法が開発されているなど、エクソソーム分析、研究成果を応用して、医療分野で様々な活用が期待されています。