リキッドバイオプシーとは

2021/12/22

リキッドバイオプシーとは

リキッドバイオプシー(liquid biopsy)とは血液を始め、尿、唾液、脳脊髄液、便などの体液サンプルを用いて、がんの超早期検出や詳細な遺伝子情報の入手が可能となる斬新かつ画期的な医療技術です。
従来、患者ひとり一人の疾患の性質を捉えるには,疾患部位における細胞の遺伝子変異や遺伝子発現解析,病理画像による診断が行われてきました。内視鏡や針を用いた組織の生検(biopsy)検体や手術で切除した組織を用いるため、患者への負担が大きい検査になります。 一方、リキッドバイオプシーは採血など患者への負担が低い手法で診断材料を採取できるという利点から、繰り返しの採取が可能であり、定量的なモニタリングが可能となります。
画像診断や内視鏡検査などと比べても費やす手間が少なく済み、一度に多くの人を検査できるスループット性も高いことから、医療現場での人手不足の解消に繋がる期待もあります。

リキッドバイオプシーの用途

リキッドバイオプシーによる遺伝子検査は,検体採取に対する身体への負担が少ない検査であることから繰り返しの検査が可能であり,治療法の選択のみならず治療経過中のモニタリングにも有用です。
リキッドバイオプシーにおいて議論すべき点は、用いる検体と検出手法である。血液など体液から採取可能な検体種として、血中循環腫瘍細胞(CTC)、血中循環腫瘍DNA(ctDNA)、細胞外小胞(EVs)、血中循環遊離RNA(cfRNA)、マイクロRNA(miRNA)などのバイオマーカーが考えられています。
リキッドバイオプシーはさまざまな疾患で臨床応用が検討されていますが、特にがん診断でその活用が期待されています。 がん細胞は発生後、宿主の免疫からの攻撃を逃れながら増殖し、クローン進化も遂げながら、免疫を欺く術も覚え、自らに栄養を導く血管を引く能力を発揮しながら成長していきます。こうしたがん細胞のダイナミズムに応じた治療の戦略が求められるわけですが、この過程を組織生検や画像検査で逐次捉えることは不可能です。ただ、腫瘍は成長する過程で一部の細胞や腫瘍に由来する検体(細胞やDNA、エクソソームなど)を血液や体液に放出します。血液中や体液中に循環している疾患由来成分を検出して治療に役立てようというのがリキッドバイオプシーです。
なかでも、腫瘍細胞から血液中に漏れ出た腫瘍由来DNAである血中循環腫瘍DNA(ctDNA)を用いた遺伝子パネル解析は、治療後など組織検体の採取が難しい場合でも採取が可能であり、治療中に薬剤の耐性化機構として獲得された新たな遺伝子変異の検出なども期待されており、肺癌患者に対してEGFR遺伝子変異の血漿検査が保険償還されるなど、がん疾患領域におけるリキッドバイオプシー検査の実臨床への展開が進んでいいます。
ctDNAはがん細胞に由来するため個々の患者のがんに生じている特有の変異を共有しており個別化血液バイオマーカーとして期待されます。
ctDNAの包括的なゲノムプロファイリングを取得することにより非小細胞肺がんにおける遺伝子変異等に応じて抗がん剤の選択に用いられ、また、固形がん一般において「エヌトレクチニブ」の投与が有効なNTRK生検の変異を検出や、前立腺がんにおいて「オラバリブ」の投与が有効なBRCA遺伝子変異を検出します。

リキッドバイオプシーのメリット

従来、患者ひとり一人の疾患の性質を捉えるには,疾患部位における細胞の遺伝子変異や遺伝子発現解析,病理画像による診断が行われてきました。 内視鏡や針を用いた組織の生検(biopsy)検体や手術で切除した組織を用いるため、患者への負担が大きい検査になります。
一方、リキッドバイオプシーは採血など患者への負担が低い手法で診断材料を採取できるという利点から、繰り返しの採取が可能であり、がんの状態をリアルタイムで評価、モニタリングすることが可能となります。

腫瘍組織は一様でなく、がん遺伝子の変異はランダムに生じており、遺伝子情報が腫瘍組織の部位によってことなります。従来の組織検査では、採取した部分が腫瘍のごく一部であるため、遺伝子情報が部分的で必要な情報が含まれていない可能性がありましたが、リキッドバイオプシーではがん遺伝子異常の情報を網羅的に調べることが可能となります。

例えば、患者が治療を完了して寛解した後、ctDNAのレベルと特性を定期的に分析することにより、疾患の再発を監視できます。 このモニタリングは、最小残存病変(MRD)の評価とも呼ばれます。
転移性または進行性疾患の場合、リキッドバイオプシーによるctDNAのモニタリングにより、腫瘍がその主要な特徴からどのように進化したかについての洞察が得られ、進化する進行性の癌を治療するための治療戦略の変更に役立ちます。

リキッドバイオプシーの課題・問題点

がんは、腫瘍の増殖、進展などを制御する遺伝子の変化の蓄積により発生するため、がんにおける遺伝子変異を検出し、治療につなげるコンパニオン診断、融合遺伝子医療がこれからの精密医療には重要です。
しかし、腫瘍は非常に不均一であり、治療経過中に変化することがあります。
また固形癌では、一般的に治療経過中に複数回の遺伝子検査を実施するための腫瘍組織の侵襲的な再生検は困難です。
リキッドバイオプシーは血液や体液を用いる検査なので、患者さんの身体への負担が小さく適切なタイミングで腫瘍由来物質を用いた遺伝子変化の検出を行える可能性があります。 また、多くの疾患において、いかに早く疾患を見つけられるか疾患の早期発見が重要になります。早期発見がその後の高い生存率に結びつくからです。

しかし、体液含まれる物質は全身のプロファイリングになり、組織検体と血液検体を用いた検査の結果は、生物学的(科学的)に一致するものではないといえます。
また、血液中に含まれるがん由来のctDNAはcfDNA中の1%以下と極めて微量でありそのほとんどが正常なDNAになります。 検出手法における課題としては、体液中に微量にしか存在しない腫瘍由来の分子を検出するため、検出系の高感度化が求められています。加えて、腫瘍組織の大規模なゲノム解析が公表され,分子標的治療薬の感受性,耐性に関連する分子の報告が増えるにつれ,多数の遺伝子変異を同時に検出するマルチプレックス化が求められています。
次世代シークエンス解析技術の進歩によりこれらの課題は解決しつつあり、臨床応用として薬物療法の有効性の評価や耐性獲得あるいは再発リスクの早期予測に用いる臨床研究が進められています。

まとめ

リキッドバイオプシーによる診断を可能にするためには、体液中に存在するさまざまな物質から解析対象を選択し、どのように解析するかが鍵となります。
解析対象によって得られる情報の種類も異なり、一度の採血などによって、多くの情報が得られることになるでしょう。 将来的には、リキッドバイオプシーによって疾患発症前の“予兆”をとらえることで、未病状態での治療介入につながることが期待されています。
定期的に尿を近くのクリニックに提出するだけで、自分の健康状態を知ることができ,疾患の予兆があれば未病で防ぐことができるという、夢のような医療が実現できるかもしれません。