アプリケーションノート
Vol.6 | 血液由来サンプルからのmiRNAを使用した解析

概要

哺乳類を含む高等生物の細胞中には、従来のタンパク質をコードするRNA(メッセンジャーRNA)とは異なり、タンパク質をコードしていないにもかかわらず転写されるnon-coding RNA(ncRNA:非コードRNA)が多数存在します。これらのなかには、マイクロRNA(miRNA)と呼ばれる20~25塩基ほどの長さの一本鎖の短鎖RNAがあり、発生や細胞分化の過程のみならず、疾患の発生においても重要な役割を果たしていることが解明されています。近年、血清(血漿)中にもmiRNAが安定に存在することが明らかにされ、疾病の診断や治療効果の判定、治療の選択などのマーカーとして臨床研究等において特に注目されています。従来、血清(血漿)中には大量のRNaseが存在するため、血中にあるRNAは短時間で分解され、血清中にmiRNAが存在することはありえないと考えられていましたが、最近の研究で胎盤由来のmiRNAの存在を母胎の血清中で確認、さらに血清中に存在するmiRNAを網羅的に解析する等、血中にあるmiRNAをターゲットとした研究が飛躍的に増えています(参考論文を参照)。血清(血漿)中にあるmiRNAは細胞が放出する小胞内で安定に存在するため、マーカーとして表1に示されるような利点があります。しかし小胞内に存在するmiRNAは極微量であり再現性のある解析が困難なことから、弊社ではDNAチップ3D-Gene®の特長である感度の高さを生かし、少量の血液検体からでも網羅的なmiRNA解析を再現良く実施できる処方を確立しました。本処方の特徴は(1)高純度なmiRNAが得られる抽出方法(高い再現性・安定性)、(2)抽出の煩雑な操作が少なく簡便、(3)高感度チップを使用した検出遺伝子数の増加、および高いデータ再現性等が挙げられます。

  1. 病巣(周辺組織)の状態や障害を受けた組織に対する特異性を反映
  2. 採取し易く、凍結融解や温度、酸等に対して安定なためバイオマーカーとして良質
  3. miRNAは遺伝子と比べて種類が少ない(1,000種類程度)
  4. 生物種間での相同性が高く、動物実験での結果がヒトに外挿されやすい
  5. タンパク質合成の上流=創薬のターゲットになる、レスポンスが早い
  6. 小胞を介して細胞の情報伝達への関わりが示唆されている

表1 血中miRNAの利点

参考論文:

  1. 1) Chim, S.S. et al.: Clin. Chem., 54: 482-490, 2008
  2. 2) Gilad, S. Et al.: PloS ONE, 3: e3148, 2008
  3. 3) Mitchell, P.S. et al.: Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 105: 10513-10518, 2008
  4. 4) Kosaka N, et al.: J Biol Chem., 285(23):17442-52, 2010
  5. 5) Kosaka N, et al.: Cancer Sci., 101(10):2087-92, 2010

解析例

健常者血清(10名混合)、癌患者血清(6名混合)各0.3mLを本処方にしたがってmiRNAを調製した後、3D-Gene®で比較解析を行った結果を図1に示します。また図2に対照実験として、健常者血清A群(10名混合)、B群(10名混合)各0.3mLを本処方にしたがって3D-Gene®で比較解析した結果を示します。血中miRNAは健常者間で相関が高く、安定に発現していることがわかります。一方、図1で見出された癌患者で特異的に発現抑制されているmiR-Xは、oncogeneの発現を抑制する機能を有し、複数種の癌(肺、卵巣、胃、腸など)で発現減少することが既知なmiRNAであることに対し、癌患者で発現亢進しているmiR-Yは、がんとの関連報告がなく、ターゲットや機能も未解明なことから、新規な癌マーカー候補になり得ると考えています。このように今回、開発した血中miRNAの解析処方は、微量な血漿(血漿)からmiRNAを効率的に抽出し、また高感度チップを利用するため、遺伝子発現解析と同様、再現性が高く、定量的に解析できるのが特長です。

  • 健常者血清(10名混合)と癌患者血清(6名混合)との比較図1 健常者血清(10名混合)と癌患者血清(6名混合)との比較
  • 健常者血清A群(10名混合)と健常者血清B群(10名混合)との比較図2 健常者血清A群(10名混合)と健常者血清B群(10名混合)との比較