アプリケーションノート
Vol.2 | 酵母全遺伝子型DNAチップの感度比較

株式会社DNAチップ研究所
東レ株式会社

柱状構造からなる、酵母全遺伝子型チップ3D-Gene® Yeast Oligo chip 6kを用いた遺伝子発現解析の例を記す。本チップにはSaccharomyces Genome Database(SGD)に登録された5,888遺伝子に対するプローブが搭載され、出芽酵母Saccharomyces cerevisiaeの遺伝子発現を網羅的に解析できる。
まず、酵母株(gpd1欠損株)を5mlのYPAD培地で一晩、30℃で振とう培養(前培養)した後、OD660=0.1になるように150mlのYPAD培地に植菌、30℃で振とう培養した(本培養)。OD660が0.6にまで増殖したところで集菌し、得られた細胞からSchmittらの方法1)にしたがいtotal RNAを調整、aRNA合成および標識化を行った。一方、スパイク用gpd1遺伝子はcDNAからin vitro 転写によりmRNAを合成した後、aRNA増幅および標識化を行った。このようにして調整した各aRNAを一定の比率で混和、競合ハイブリダイゼーションによる感度比較解析を行った。

図1にハイブリダイゼーション後の画像の一部を示す。同一希釈段階において、本DNAチップはB社DNAチップよりも3倍以上のS/N比を有しており、従来チップで検出限界以下とされる遺伝子を精確に検出できると期待される。
一方、本チップの検出感度を図2に示す。細胞あたり1分子の遺伝子(希釈系列 1/300K)を検出できることは勿論、1分子以下でも検出できる。すなわち集菌した酵母細胞のうち、一部の細胞内で変動する微弱な変化まで捉えられる可能性がある。

  1:150K
B社
Protocol: B社

361(S/N:3)

361(S/N:3)

3D-Gene
Protocol: 3D-Gene

1467(S/N:10)

1467(S/N:10)

図1 B社チップとの感度比較

酵母は最も古くから研究されている生物の一つであり、シグナル伝達因子をはじめ、様々な因子に関する知識が豊富で、またそれらを記述したデーターベースがよく整備されている。今後、高い特異性をもつプローブと高感度を実現したDNAチップを用いることで極低発現な遺伝子の機能を網羅的に解明、データベースを充実化させることにより、真核細胞の「モデル生物」として世界中でより広範な分野で研究が行われると期待される。

3D-Gene® Yeast Oligo chip 6kの感度画像

図2 3D-Gene® Yeast Oligo chip 6kの感度画像[赤丸はgpd1のスポットを示す]

参考論文:

  1. 1) Schmitt, et al. (1990) Nucleic Acids Res, 18: 3091-3092.