血清・血漿検体からのmiRNA解析

近年、血清・血漿中にもRNAが安定に存在することが明らかにされ、これらが臨床研究等における疾病の診断や治療効果の判定、治療の選択などのマーカーとして特に注目されています。従来、血清・血漿中には大量のRNA分解酵素が存在するため、血液中にあるRNAは短時間で分解され、血清・血漿中にmiRNAが存在することはありえないと考えられてきました。ところが最近の研究で、血清・血漿中でmiRNAが存在することが確認され、さらに血清・血漿中に存在するmiRNAを網羅的に解析する等の血液中にあるmiRNAをターゲットとした研究が飛躍的に増加しています。癌患者と健常者とでは血液中のmiRNAのプロファイリングに大きな違いがみられ、その違いが癌の病態、悪性度、予後に関する重要な情報として新たなマーカーとして利用できれば、診断や治療に応用できると期待されています。
血清・血漿中にあるmiRNAは細胞や組織から分泌あるいは排出されるタイプのmiRNA(分泌型miRNA)であると言われ、細胞が放出する際に小胞内につつまれるか、あるいはタンパク質と会合した状態となり、RNA分解酵素の分解を受けず、安定的に存在します。このため、バイオマーカーとして以下に示されるような多くの利点があげられます。

  1. 血清・血漿は組織に比べて比較的非浸襲的に採取できる。
  2. 病巣(周辺組織)の状態や障害を受けた組織に対する特異性を反映する。
  3. 凍結融解や温度、酸等に対して安定なため、長期保存が可能である。
  4. タンパク質合成の上流を制御するため、創薬のターゲットになりうる。
  5. 薬剤・刺激に対するレスポンスが早い。
  6. 小胞を介して細胞の情報伝達への関わりが示唆されている。

miRNAが包まれて放出される小胞は、細胞質内で不要になったタンパク質やアミノ酸などを膜の構造体で包んだうえで、細胞外へ輸送している「エキソソーム」とよばれる小胞であると言われている。このようなエキソソームは、血液以外にも、唾液、尿、母、乳などの体液中を循環することが知られており、これら体液中のmiRNAも注目を浴びている。また、最近になって、癌細胞が自らのmiRNAをエキソソームに封入して分泌していることが明らかになってきたため、癌細胞が周辺の組織、細胞に情報を伝達する手段としてもエキソソームは注目を浴びており、その細胞情報伝達機構を解明するためのモデル系として、細胞培養上清中のmiRNA解析をする手法も検討されつつあります。これらの解析によりmiRNAを介した細胞間の情報の伝達、例えば、癌細胞の転移や免疫系における情報伝達や損傷組織の修復にこのエキソソームの機構が利用されているのではないかと注目を浴びています。

図 血清・血漿検体からのmiRNA解析

血清・血漿検体からのmiRNA解析